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January 21, 2005

大判カメラの勧め

 最近大判カメラに凝っている。もともと写真の好みが浅いピントのきめ細かい絵が好きなのに加えて、ルーペで拡大してみてみるとどこまでも拡大できるような感覚が好きなのだ。
 ちょうど映画「ブレードランナー」のなかで主人公デッカードが証拠物件の写真を特殊なビューアーにかけると、1枚の写真なのに視点を変えて写されたシーンの中を自由に移動しながら見ることが出来る装置が出てきたが、大げさに言えば視点は変えられないもののその現代版といった感じだろうか。
 以前HASSELを初めて手に入れたときに撮った写真の中に、建築途中のビルとクレーンを覆っている網の目が全て写っていて仰天したときがあったが、これが大判写真では網の目どころか遠景のビルの窓の中まで拡大すると判別できる程なのだ。

 おかげで普通のカメラでは退屈なだけの遠くの町並みや風景も大判カメラで撮ってみると思わぬ発見があるのがおもしろい。特に私は目が悪いせいもあって、後で上がった写真を見ると「あれ、こんなところに看板があったっけ」とか、端っこの方に写っている人が思わぬリアクションや表情を浮かべているのが判ったりとかして見ていて飽きないし、そのとき自分のいた空間をそっくり切り取って後から好きなように見て回れるような感じがして、なにか神の視点といったら大げさだが、自分の能力を超えた視点を手に入れたような気にさせてくれるのである。

 とはいえ、たとえ写真を趣味にしている人でも大判カメラというとさぞかし撮るのが大変で高価そうで二の足を踏む人も多いかもしれないが、実はこれは誤解なのである。
 まず値段についてだが、大げさな外観や写りからみれば意外なほど安く手に入れることも可能なのだ。カタログなどで調べるとそれなりに高価なものばかりであるが、中古商品を当たってみればむしろ今は買い手がつかないせいもあって結構安い掘り出し物が見つかることだろう。もちろん、大判カメラでもジナーやリンホフなどライカやコンタックスに匹敵する(いや価格からするとそれ以上か)高級ブランドが存在し、カメラ屋の奥で歳月を経ながら風格を醸し出している様を目にすることが出来のだが、単に大判写真を撮ってみたいのであればそうしたブランド品でなくても十分事足りるし写りについてもそんなに心配することはない、なにせ大判カメラはたいていのレンズが交換可能なので、ある特定のメーカーじゃないとこのレンズが使えないと言うことはまずないからだ。ではなにが違うかというと、主に使い勝手と長期間使った際の耐久性や信頼性の違いなのだが、もともと動作部分の少ない大判カメラでは故障についてはそれほど神経質になることはないし、使い勝手の悪さや拡張性の制約も値段ほどの違いがあるわけではないからだ。
 次に使い勝手であるが、これも意外なほど簡単なのである。もともと大判カメラは大げさな外見に反して写真を撮るために必要な作業はほとんど自動化されてないので、手順は多いもののすべての作業が直接写真を撮ることと結びついていて無駄がないし、撮ることと直接関連しているせいで直感的に作業できるのである。おかげで大判カメラを使えば写真の仕組みを身をもって知ることが出来だろう。なにせピントグラスに写る映像がそのままフィルムに写るのだから間違いない。感覚的に判りづらい被写界深度はもとより、接写時の露出倍数などもまさに「見て判る」のである(ピントガラスが暗いとつらいけど)。
思えば僕が学生の頃、写真学科の最初の授業は大判カメラだったのを傍目で見て、なぜ最初にポピュラーな一眼レフではなくてプロ用の印象の強い大判カメラの実習を最初にやるのだろうと訝しく思っていたが、自分で大判カメラで写真を撮るようになってみると、たしかによく分かるのである。なに分ここまで撮るのが大げさだと、その分ちゃんと構図を考えたり光線の具合を見たりするので結果的にいい写真をとろうとするうちに写真の腕も上がるという訳である。
(余談だがその授業ではフィルム代をケチっていたわけではないだろうが、大判カメラは渡してくれたもののなかなかフィルムを入れての撮影をやらせてもらえなかったらしい。)

もう一つの大判カメラのメリットは最初に書いたことと矛盾するかもしれないが、決して隠し撮り出来ない撮影の大げささである。僕が使っているスピードグラフィックはプレス用カメラとして昭和40年代ぐらいまで新聞社などで使われていたらしいが、正直なところどうすればそんなことが出来るのか見当もつかないほど今の目から見ると大変なのである。
といっても撮影自体が難しいのではない。単純にカメラが大きくて重く、いろんなところが自動化されていないだけでも十分に大変なのだ。たとえばその重さから、日頃携行するにはかなりの覚悟が必要なのは言うまでもないし、いざ何かを撮ろうとしてもまず、フォーカスレバーを開けてシャッターを開けピントグラスの像を確認して構図を決め、構図が決まったらフィルムフォルダーをおもむろにセットした後、フォーカスレバーを元に戻し、シャッターをチャージして、ピントと露出(シャッター速度と絞り)をセットする、こうしてようやくシャッターを切ることが出来るのである。もちろんこれを手に持ったままやるのは不可能に近いので通常は三脚にセットして行う訳だが、スタジオならともかく外でしかも雨が降っていたりしたら、両手が2本あるだけではとても足りない感じがするのは判っていただけるだろう。
 もちろんプレスカメラとして使う場合にはとてもこんな事をしてはいられないので、付属のフレームでおおざっぱに構図を決めたら、後は目測や付属の距離計を頼りにピントを決めて、たいていは露出計など使わずに感を頼りに露出を決めるか、強力なストロボに物をいわせて、手持ちで撮るわけだが、こんな芸当はプロならともかく駆け出しの大判カメラ初心者にとってはフィルムをどぶに捨てるような物でとてもじゃないが恐ろしくて出来そうもないテクニックである。それでも当時は新聞記者ならだれでも出来たそうで、なんでも万歳三唱を唱えて、3回目には2枚目の撮影が間に合ったというから恐れ入る。
 じゃあなんでこれがいいのかと言うと、ここまで大げさで人目に付くと、このご時世に写真を撮ることで周りの普通の人たちとコミュニケーションがとれるのである。僕も撮影中に何度も質問を受けたり、年輩の人に懐かしがられたり、子供たちに受けたりすると、まだまだ世の中も捨てたもんじゃないかなと言う気もしてくる。まあ、逆に周りで携帯でばしゃばしゃとっている人がいるのに、警備員が飛んできて撮影禁止ですと言われることも多々あるのが難点だが・・。
それでもカメラ付き携帯の普及もあって、ますます写真を撮ることが傍若無人になりつつある今日この頃、せめて趣味で写真を撮っている人たちぐらい大判カメラをもってくれたら、もう少し撮影マナーの向上にも、アマチュアカメラマンの地位向上にも繋がるのではないだろうか。

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Comments

お初です。
dokuさんと言えば、三脚にパノラマカメラのイメージが濃いのですが、自分はスナップばかりなので最近は携帯デジカメオンリーです。
しかも200万画素→400万画素ときて、次は500万画素のデジカメ買おうと思ってたんですが、昔の200万画素の中古品を買い、今はそれをメインで使っています。(動画綺麗で昔のCCDなのででかいために明るく撮れるので)
そうだ、この間久しぶりに一眼レフのカメラバック開けたら、カメラのグリップが白くなってた、、、、カビですよね、これ(涙)
先日は時間ありませんで失礼しましたが、今度は飲みに行きましょうね!!

Posted by: ムトウ | January 22, 2005 at 09:54 AM

コメントありがとうございます。
飲みに行くお誘いありがとうございます。僕もゲーム制作の仕事が終わってめでたく(?)本当のフリーの仲間入りをしたので、これで長年の夢だった平日に飲みに行くというのが出来そうです。

Posted by: doku | January 22, 2005 at 10:15 PM

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