機械のお国柄(前編)
工業製品もお国柄が出て、各国を比較すると面白い。精密だが懲りすぎるドイツ、真面目だがややおもしろみに欠ける日本、必要な機能以外はばっさり切り去ってコストパフォーマンスは最高だが、使い勝手は最悪のロシア、個々は凡庸そうでも大量生産が効き、数で押し切れるアメリカと言ったところだろうか。
まず日本製、これはわざわざ説明するまでもないだろう。今や世界のMaid in Japanである。とはいえ機能や実用性など平均点はいいものの何か物足りない気がするのは私だけだろうか。別にそれで不具合が有るわけではないしコストパフォーマンスは悪くないのだからいいじゃないと言われればそれまでだが、やはり物足りないものは物足りないのだ。では何が物足りないのだろうか。それは日本でも人気のある外国の有名ブランドと比べてみると見えてくる。
例えばsmartと言う車がある。ダイムラーベンツが発売した2シーターの車だが、印象的な外見なので車にそれほど興味の無い人でも一目見たら知っていると言う答えが返ってくることだろう。だが、smartはそれほど革新的な技術が使われている訳ではない。2シーターに割り切ったコンパクトな外観も、日本の軽自動車と実はそう変わらない大きさだったりする。ではどこが違うのかと言うと、コンセプトの割り切りと予算の配分が違うのである。おそらく日本のメーカーだったら、ちょっと大きくなっても4人乗りに出来るならそっちの方が需要が多そうだし4人乗りにしてしまうだろうし、わざわざ専用の部品を起こしてまで、内装の時計やらシートやら何やらを独自のものにはしないだろう。こうした細かい部品は他と共通にした方が安くつくし、別に走りには何の関係も無いからだ。
だがダイムラーベンツはやってしまった。これは他のジャンル・メーカーでも当てはまる。Appleが今度出した。iPod shuffleと言う携帯音楽プレイヤーは、値段を下げ大きさを小さくするために、大胆にも曲名を表示する液晶画面を取ってしまい、基本的には演奏順番はランダムに再生すると言う方法をとったが、果たしてこんな大胆な選択を日本のメーカーが取るだろうか。むしろほとんど使わない機能でも、少しでもリクエストがあれば、あれこれ付けていき、値段は目に見えない仕上げを省いたり、多少見た目に目をつむっても、共通で使える部品を使い回すことで下げると言う方法をとるのではないだろうか。
むろん、こうした冒険は失敗することが多いだろう。またメーカー側からの使い方の提案は、一歩間違うと押しつけと取られて受け入れられない恐れもある。だがこうしたアプローチの大胆さが、きっと日本製品に足りないものなのかも知れない。
さて大胆な省略と言えば、次はロシア製についてふれなくてはいけないだろう。
先ほどロシア製品の特徴は大胆な省略と徹底した使い回しによる最高のコストパフォーマンスと(最悪の使い勝手)と書いたがこれを端的に示す例として、ザリアと言うカメラがある。元々Fedと言うバルナックライカのコピーから大胆にも連動距離計周りをごっそり取ったカメラなのだが、これがロシア的な大胆な省略で、まさに「ただ取っただけ」なのだ。
もともと無理に商品を売ると言う考えが無かったお国柄もあるが、実はこれには他の理由もある。官僚主義的な手続きの煩雑さからか、それとも単に横着なのか知らないが、ロシアでは何かを作る場合に新規で設計する部分を極力減らす傾向があるためだ。
具体的にどういう事かというと、使える部分があれば極力それを使い回し、修正する必要があっても極力他の部分は手をつけず、修正箇所を減らそうとするのである。そしてこれはカメラに限らず、建物でも飛行機でも宇宙船までも貫かれている方針なのである。したがって、旧ソ連の防空戦闘機スホーイ15は燃料タンクのスペースを増やすために、胴体の凹んでいる部分に板を継ぎ足して中に燃料タンクを入れたようなのっぺりとした外見になっているし、さらにエンジン出力を上げるためエンジンをツマンスキーR13に取り替えたTM型に至っては胴体はそのままに無理矢理入れたせいでさらに無骨な形になっている。またロシア最初の偵察衛星「ツェニット2」も人類最初の有人衛星ボストークに人の代わりにカメラを積むことで部品を共通化し、それによってアメリカとは比較にならない数を打ち上げることにつながったのである。建物などはさらにすごい、国民に安価な住宅を供給すると言う名目の元に都市の住宅は徹底的に部品の共通化が図られて、ブレジネフ時代にはとうとうノブや鍵などほとんどすべての部品が共通化されて、住んでいる住民さえも自宅の区別が付かなかったと言うのだ。(余談だが、ロシアでは大変人気のある戯曲で何度も映画化された「運命の皮肉、あるいはいい湯でしたね。」では主人公ルカーシンが自宅と間違えて、赤の他人のナージャのアパートに入って寝てしまうくだりがあるが、これもこのあたりの事情を知らないと笑えないだろう。ロシアでは大受けだったらしいが・・)
さすがに第二次大戦中1943年から1944の1年間で19435両もの戦車T-34を作ってしまう国だけの事はある。
(あまりに長くなったので次回に続きます)
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