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July 25, 2005

君はアウトサイダーアートを知っているか?

 雑誌「Pen」だったと思うが、唐突に見開きでアウトサイダーアートを特集をしているのを見つけた。美術雑誌以外にもアウトサイダーアートが取り上げられるようになったのかと言う感慨と、そのなんのバックボーンどころか十分な説明すらない扱いに、きっとこれも一時期のブームのネタとして消費するつもりなのだろうかと言う残念な思いを感じたものだった。

 アウトサイダーアートとはもともとフランスの画家ジャン・デュビュッフェがつくったフランス語「アール・ブリュット(Art Brut)」を、イギリスの著述家ロジャー・カーディナルが英語に置き換えたものである。その定義はデュビュッフェらが中心となって1949年に開催した「文化的芸術よりも、生(き)の芸術を」のパンフレットによると以下のようになっている。

 ・背景:過去に芸術家としての訓練を受けていないこと。
 ・創作動機:芸術家としての名声を得ることでなく、あくまでも自発的であること。 (他者への公開を目的としなければ、さらに望ましい) 
 ・創作手法:創作の過程で、過去や現在における芸術のモードに影響を受けていないこと。

今ではどちらかと言うと知的障害者の書いたアートと見られているアウトサイダーアートであるが、その定義は別に知的障害者に限定されたものではないのだ。
 こうしたアウトサイダーアーティストは日本では「山下清」、外国では「ヘンリー・ダーガー」などがよく知られている。

 私がアウトサイダーアートに引かれたのはその独自の世界観もあるが、なによりその偏執的とも言える作品作りにかける姿勢と、それとは対照的な報われない生涯にある。それは私を含めて、美大などに行ったたいていの学生達がとりあえず食っていくためにどこかで現実に折り合いをつけて食べていくための作品作りをしていくのに対して、なんの見返りも求めずにただ作品を作り続ける姿に憧れと絶望を感じるからなのかもしれない。
たとえば今では世界有数のギャラリーでも取り上げられるようになったヘンリー・ダーガーの生前は以下のようなものであったという。少し長いが柳下毅一郎氏のダーガー紹介文とマリア・ガルシア氏のサイト「幻想画廊」の紹介文を引用しよう。

ダーガーは誰にとっても「無害な老人」だった。ほとんど誰とも口をきかず、もちろん友人など一人も居なかった。だから死後、その部屋を見た人たちは大いに驚くことになる。部屋からは15巻15000ページからなる長大な小説(異世界での戦争年代記であり一説では世界最長のファンタジー小説)と、長さ3メートルの絵巻物数十枚を綴じた3冊の画集が発見されたのだ。 小説もだが、それ以上に注目されたのが絵である。そこに描かれていたのは花畑で戯れる裸の少女たちと、彼女らを襲い残虐な拷問にかける悪鬼のような兵士たちの姿だった。少女たちの股間にはペニスが生えていた。(たぶんダーガーは女性器を見たことがなかったのだろう)彼女たちは首を吊られ、手足を切断され、腹を裂かれはらわたを引きずり出される。これが妙に牧歌的な風景の中で繰りひろげられているのが逆に恐怖感を煽り立てる。「無害な老人」の中に隠れていた闇の深さに誰もが息を飲んだ。(中略)その手際の鮮やかさと幼稚さを突き抜けたような奇想ととてつもない執念によってダーガーは商業芸術家には絶対にたどりつけない境地に屹立するのだ。

シカゴの片隅の小さなアパートで毎夜、身も凍るような大戦争が行われていたと言ったら、あなたはきっと驚かれるでしょう。グランデリニア国とアビエニア国との奴隷制を巡る戦いです。60年以上もの間、この大戦争を目撃しつづけたのはたった一人の男性でした。
彼の名はヘンリー・ダーガー。シカゴの病院の清掃人兼皿洗いの仕事を、50年以上続けました。友達もおらず、身よりもない孤独な老人ダーガーは、1973年にひっそりと息を引き取りました。彼の死後、雑然とした部屋の中から驚くべき品々が発見されました。
(中略)
少女性愛を感じさせる作品ですが、ダーガーは決して少女を手にかけることはありませんでした。敬虔なキリスト教徒であった彼は、物語の殺戮を目撃しながら「神はなぜこのような非道をお許しになるのか!」と叫び続けました。物語の中での彼は、さえない掃除人ではなく、勇敢に戦況を書くジャーナリスト、優秀なカトリック軍のスパイ、そして子供達の味方でした。
妄想の王国に生きた孤高の天才アーティスト、ヘンリー・ダーガー、彼の墓には「子供達を守り続けた芸術家」という銘が刻まれています。

しかも皮肉なことにこれでもダーガーは恵まれた方だというのである。光文社新書のアウトサイダー・アートによるとたまたま大家が有名な写真家だったダーガーのような「発見者」に見つかることもなく、作品の大半がゴミとして捨てられてあとからわずかに残された作品からしか知ることの出来ない作家達は沢山いたというのである(そしてきっと誰にも知られないまま消え去っていくものはさらに沢山いるのだろう)。
 ものを作ったり絵を描いたりするのに疲れたときに、なんの見返りも求めずに作品を作り続けた彼ら(彼女ら)のことを羨ましくかつ悲しく思うのである。

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Comments

この本ご存知ですか。
http://blog.taco.shop-pro.jp/?eid=286548
作者は正規の美術教育を受けているのでアウトサイダーとはいえませんが、その鬼気迫る絵の迫力と描くことに注がれたエネルギーは、アウトサイダーアートのそれを思わせます。

Posted by: mimio | August 09, 2008 at 10:07 PM

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