書評:全核兵器消滅計画
全核兵器消滅計画
ニュートリノを使って地球の裏側から核兵器を消滅させる。そんな計画について書かれている本があったなら、おそらくたいていの人はいわゆる疑似科学のトンデモ本だと思うだろう。私もそんなつもりで本書を手にとって読み始めたのだが、その予想は早くも数ページ目で具体的な核兵器の構造と、核物理学の専門用語に満ちた詳細によって打ち砕かれた。そう、ここに書かれていることは素粒子研究で有名なKEK(高エネルギー加速器機構)のトップを務めた日本人物理学者が提唱している大まじめな計画なのである。
その内容は荒唐無稽とも言えるほどの壮大な計画ではあるが、この本の中で1つ1つ実例を挙げながら決してそれが不可能な絵空事ではないことを解説していく。その計画とは非常に高いエネルギーを与えたニュートリノと言う基本粒子(電子や中性子などにあたる)を放射し、それが目標に到達する過程で生じた中性子によってプルトニウムやウラニウムの性質を変えて核爆弾として使えないように無力化してしまうというもので、巨大な粒子加速器を用いることで実現可能だと言うのである。
ニュートリノと言うと地球を簡単に通過してしまうほど非常に貫通力の高い粒子で、そのために岐阜にあるスーパーカミオカンデ(Link先サウンド有り注意)と言うニュートリノ探知装置は、わずか数個のニュートリノを検出するために膨大な純水を光センサーの中に入れて、偶然水の原子に当たったニュートリノが発する光を検出すると言う話を知っていたので、これを読んだときにはそんなこと出来るわけ無いだろうと思ったものだが、その疑問も本書の中ではニュートリノに与えるエネルギーの大きさによって解決できることが示されている。
もちろん実現までにはさまざまな困難はあるだろう。本書によると現在の技術で作るとなるとそのための装置は長さ1000km(東京-大阪間の約2倍)にも及ぶものになってしまうものらしい。しかしそれもいくつかの問題点さえクリアーすればずっと小型化が可能で、最終的には建造費は数千億円の規模に落ち着く見込みがあるらしい。数千億円と言うと膨大な金額のような気がするかも知れないが、日本が進めている高速増殖炉「もんじゅ」の金額が6000億円と聞けばあながち天文学的な金額とも言えないだろう。
折しも、日本の周りの核問題は日に日にきな臭くなっている。いま日本はMD(ミサイル防衛計画)を米国と進めているがそれとて膨大なコストがかかる割には、すべてのミサイルを迎撃するのはまず不可能だと言われている。どうだろう同じ技術的に海のものとも山のものともつかないのであれば、全地球上の核兵器を無効化する射程をもつ、本システムに投資して見てはいかがだろうか。
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