民間月世界旅行
もう古いニュースだがとうとう民間宇宙旅行も月をめざすことになったようだ。以下に共同通信の記事を引く。
宇宙旅行をあっせんしている米国のスペース・アドベンチャーズ社は10日、民間人を対象にした月への宇宙観光旅行を計画していると発表した。募集は2人で、参加費用は1人当たり1億ドル(約110億円)。早ければ2008年ごろの実現を目指す。 民間人を対象にした宇宙旅行は徐々に始まっているが、国際宇宙ステーション(ISS)までにとどまっており、月への旅行が実現すれば初めてになる。 同社によると、ロシア宇宙庁と契約し、旅行には宇宙船ソユーズを使用。船長はロシアの宇宙飛行士が務める。宇宙船とは別に打ち上げられたロケットと地球の周回上でドッキングし月に向かう。 月面には着陸しないが、地球からは見えない月の裏側を回り、宇宙船には大きな窓の取り付けを検討している。途中でISSに滞在するプランもある。(共同)
ところでこのニュース話題性が高く、スラッシュドットを始めいろんなサイトで取り上げられたにもかかわらず、肝心の技術的側面について触れた記事は少ないようだ。そんなわけで大した掘り下げは出来ないもののちょっとその仕組みについて解説してみよう。とはいえ軌道計算等は面倒なのでやっていないのであくまでおおざっぱな話だと思って欲しい。
まず、最初に月旅行がどんなものかを知ってもらうためにアポロ計画を参考にしてみよう。一見するとアポロ計画はサターン5型ロケット1台で月に向かったので、単純に燃料の無くなった段を切り離しながら月に向かったように思われるかも知れないが、実はそう簡単なものではない。その方式も検討されたのであるがそれだと今でも史上最大のサターンロケットよりもはるかに巨大なロケットが必要でとてもじゃないが現実的でないと見送られたのである。それじゃあアポロ計画ではどうやったかと言うと、いったん月まで向かった後に着陸に必要な部分だけを月に降ろし、また月の軌道上で本体とドッキングして地球に戻るという方式をとったのである。
なぜ一見こんな回りくどい方式をとったかというと、簡単な話でわざわざ地球に戻るためのロケットをいったん月に降ろし、また地球まで打ち上げ直すと効率が悪かったからである。そのためにアポロ計画では当時まだ実現されていなかったドッキング技術などを一生懸命開発する必要に迫られたのである。
しかし時代が進んで現在ではご存じの通り、ドッキング技術はISS(国際宇宙ステーション)に行くためにごく普通に行われるものになっている。それなら一度に巨大なロケットを使って月から地球までに必要な燃料を積んだロケットをわざわざ打ち上げなくても、今のロケットで打ち上げられるサイズに分けて軌道上でドッキングして行けば良いわけである。(わざわざ新規でロケット等を作る必要も無くなるわけだ)
こうした考えでおそらくスペースアドベンチャー社は計画を立てたのだろう。詳しくは以下のリンク集を見て欲しいが、興味深いのはすべてロシアのシステムを使っていることである。ところでロシアの宇宙船「ソユーズ」を使うと聞いて「あれで月に行けるのか」と心配する人もいるかも知れないが、実はソユーズ宇宙船はアメリカのアポロ計画に対抗して月に行くために作られた宇宙船なので、最初から十分その能力は備えているのである。ただソ連の不幸な点は、アメリカのサターンに匹敵する超巨大ロケットN-1の開発がとうとううまく行かなかった事にあり、結局は月にたどり着くことは出来なかったのである。それにしても今回の計画を当時アメリカとの月旅行競争に追われていたコロリョフやミーシンが知ったらどう思っただろうか。彼らの悲願が21世紀になってアメリカの民間会社によって実現されるというのも歴史の不思議さを感じさせる。
参考Link:今回の計画を立てたスペースアドベンチャー社の日本語ページ
この計画のイメージCG
アポロマニアックス:おそらく日本一詳しいアポロ計画のページを作られているt_mutoさんのページ
2005/8/20追記:ソユーズを月まで運ぶblok DMの打ち上げにはアメリカのデルタロケットを使う模様。
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