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September 13, 2005

書評:日本がもしアメリカ51番目の州になったら

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日本がもしアメリカ51番目の州になったら
 ずっと書評を書こうかと思っていたものの正直どう取り上げていいか分からなくて放っといた本だが、先日の選挙で小泉自民党が圧勝して良くも悪くも日本の米国化は確実になった事でもあるし、この機会に取り上げるのも悪くないだろう。

 ところで最近は「バカの壁」ではないが、タイトルで売れ行きが違ってくるせいか結構刺激的なタイトルの本をよく見かけることが多くなったが、意外にもこの本は読んでみるとタイトルの割には結構ちゃんとした分析がなされている。それも当然だろう、後書きによるとなんと2年半も調査や資料集めに費やしたそうで、日本と比較する形で書かれているアメリカの具体的な政治の運営システムや選挙制度、社会保障制度については、身近な国なのにこんなに知らなかったのかと痛感させられるに違いない。
 さて肝心の内容であるが、「もし日本がアメリカの51番目の州になったら」と言う仮定のもとに、今の様々な社会制度を日米比較する形で取り上げながら、ここはこう変わる、変わらない、もしくはここは日本の方がいい、アメリカの方がいいと分析していく内容になっている。その結果は多岐にわたっていてとても単純に語ることは出来ないのだが、一番印象に残ったのは意外に日本と言う国は侮れないなと言うことだ。それは冒頭のシミュレーションにもあるように、仮に日本とアメリカが融合した場合。軍事・経済など世界のほとんどの分野を両国が占有してしまうという点もあるし、今のアメリカのシステムのままで取り込まれた日本が内部からアメリカに影響を与えると、うまく行けばアメリカの根本的なシステムさえ変更できる影響力を持ってしまうと言う分析結果に象徴されている。
 そしてもう一点に印象に残ったのは、米国の州になるのも案外悪くはないかもと言う事だ。心情的には反米的な自分でさえそう感じてしまうのは、今の日本では不可能な巨大な影響力をアメリカと言う国名を語れば世界に行使出来る魅力というのもあるが、それよりも大きいのはアメリカの州にでもならない限り、抜本的な改革は不可能なのではないかと言う閉塞感の気持ちが大きいからだろう。それくらい今の日本は様々な問題を抱えているし、改革する事になってもさまざまなしがらみなどで実行は難しいのが実情だ。
 とはいえ正直ここに書かれているようにアメリカの州になれば(もっと現実的に今のようなアメリカを手本とするような改革によって)多くの事が改善されるかと言えば現実には難しいだろう。なにせこの本の論調の多くが日米のシステムを比較してアメリカが良さそうなところは取り入れて、日本が良さそうなところはたとえ州になっても地方分権が進んでいる米国のシステムを利用してそのまま残そうと言うのだからそれは良い結果になるのは当然だ。しかし、現実にアメリカの州になってしまったらたとえ地方の権限が日本よりは遙かに大きいとはいえ、中央政府の意向で(日本にとってはデメリットになることでも)受け入れざる得ないし、ましてやこの本に書かれているように日本州の民意がアメリカ本国に影響を与えてアメリカ自体を変えることが出来るというのはいくらシミュレーションとはいえちょっと虫が良すぎると思うのだ。また、日本が統合されるときの本当にやばい問題である日本の天皇制と米国の人種偏見については全く触れられていないというのもシミュレーションとはいえども切り込んで欲しかったというのが正直な気持ちである。
それとアメリカのシステムを手本にする上でどうしても危惧してしまうのはアメリカは本当に実力主義のシビアな社会だなあと言うことだ。それはこれまで書いてきたようにアメリカに対して好意的な解釈で書いていた著者達ですらフォローしようが無かったようで、何とか日本の社会・医療保障制度だけは残しておきたいと書いているくらいである。なにせアメリカでは中産階級が入れるレベルの保険会社ではガンなどの成人病にかかった場合に必要な手当を受けることが出来ず、ほとんどの中産階級の人たちは破産せざる得ないし(日本並の保証を受けられる保険もあるが非常に高価で庶民は入ることが出来ない)、介護保険制度も非常に貧弱で一部の勝ち組を別とすれば、中間層はナーシングホームにも入れないというのが現状だ。とはいえ現実には真っ先にアメリカ化する部分はこの弱肉強食の社会保障制度のような気がしてならない。はたして日本はこうした美点を残しながら改革を進めていくことが出来るのだろうか?
 いろいろと難癖を付ける形になってしまったが、それでもこの本は今の日本のシステムを見直す上でも、アメリカの一部では無いとはいえ、ここまでアメリカの影響を強く受けている日本の今後と影響元のアメリカを理解する上でも格好の入門書となるのは間違いないだろう。あまり見かけない本だがもし見つけたら手に取ってみて欲しい。

 それとこれは完全に余談だが個人的には近未来仮想世界ものの舞台としてこの本の冒頭に書かれた日米が融合した場合、他の国も対抗するために合併し世界は新アメリカ合衆国とロシアまで取り込んだ統一EU、そしてアジア大陸の多くの国を取り込んだ拡大中華人民共和国の3つに統合されると言うプロットは(実現して欲しくはないものの)かなり面白いと思うのだが、もうこのネタは使われているのだろうか?

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Comments

というか「1984年」そのままな気がします。

Posted by: イア | September 19, 2005 at 01:04 PM

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「日本がもしアメリカ51番目の州になったら」を読み終わりました。 本を、こんなにワクワクしながら読み進んだのは久々です。 私のかねてからの持論を専門家の人が理屈づけて 正当化してくれるのですから。 一気呵成に読了しました。 新合衆国の世界政治でのプレゼ....... [Read More]

Tracked on October 16, 2005 at 01:12 AM

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