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September 25, 2005

日本核武装の蓋あるいは壮大な気休めとしてのミサイル防衛(MD)システム

 私がもっとも信頼できると思っている軍事評論家、江畑謙介氏の意見の中で1つだけどうにも腑に落ちないものが、今アメリカと共同で進めているミサイル防衛システム(MD)への賛成意見だった。と言うのもMDシステムは云十年後は別として現状開発を進めているシステムは、調べれば調べるほど有効性とコストパフォーマンスが悪すぎるからだ。
 MDの有効性については様々な軍事関係の掲示板やBlogで議論されているので(中には変な話になっている所もあるが)ここで改めて解説を書くつもりはないが、今具体的に進められているTMD(戦域ミサイル防衛)に関して言えばその迎撃に使用するPAC-3(パトリオットミサイル)は射程15kmと言われ、東京三鷹間くらいの距離しかない(改良型でも20km程度しかない)。空自のパトリオット基地は武山(神奈川県横須賀市)、習志野(千葉県船橋市)、霞ケ浦(茨城県土浦市)、入間(埼玉県狭山市)の4箇所に有るわけだが、地図にプロットしてみれば判るように東京23区すらカバーしきれていないのが実情だ。またこれが有効なのも北朝鮮の保有するミサイルレベルでしかなく中国などが保有する弾道ミサイル「東風-15」クラスの弾道ミサイルに関してはその数(現状500発以上)、性能からもほとんど打つ手がないのが現状である。(参照:ミサイル全書,軍事研究,etc)
しかもこの計画、今でもじりじりと開発費が膨れあがっている。

参考までに読売新聞の記事を引く。


 日米両政府が2006年度から共同開発を開始する次世代型のミサイル防衛(MD)システムについて、米側が開発総額を約30億ドル(約3210億円)と見積もり、日本側に伝えてきていることが分かった。
 米側は当初、2011年度までの米の負担額を5億4500万ドル(約583億円)としていたが、開発期間を14年度までに延長したうえで改めて過去の開発例などをもとに積算したところ、総額が3倍弱に膨らんだ。
 米側は、先に米の負担額を5億4500万ドルと伝えてきた際、日本側にも同程度の負担を求めてきている。開発総額が3倍弱に膨らんだことで、政府内には、日本側負担について、「半分の1500億円程度かそれ以上の負担を求められるのではないか」(防衛庁幹部)と警戒する声が出ている。

そんな訳でMDなんかに頼るより敵のミサイル発射基地を空爆したほうが安上がりだろうとか、報復に日本も核装備するしか対抗手段は存在しないと言う指摘が何度も出る訳だが、江畑氏は何度も著書や雑誌の記名記事でMDの有効性を主張しているのである。
 しかしよく考えてみるとMDを推進しないと言うことは、ミサイルの驚異に対抗するためには上に上げたような相手の基地に対する先制攻撃か報復用の核装備しか道が無いことになってしまう。そう考えると江畑氏が主張するように日本はMDを選択するのは理に適っていると最近思うようになってきた。
 もちろんMDも含めてこれらを一切装備しないと言う選択もあるだろう。客観的に考えるとMDの有効性には大いに疑問が有るわけだし、核装備や先制攻撃を日本が選択するのは国際政治的にも難しい。しかしどんなに有効性に疑問があっても、何もしないでいることなど出来るだろうか。またMD以外の対抗手段は(先制攻撃を除けば)国民にとっては気休めにならないと言う事情もある。それは非常に乱暴に言ってしまえばそれ以外の手段は(核武装でさえ)、「なあに、北朝鮮から核ミサイルを撃ち込まれて東京都民1000万人が死んでも、すぐに報復して北朝鮮の国民を皆殺しにしますから大丈夫ですよ。(注)」というようなもので死んでしまった当人に取っては何の助けにもならないからである。それだったら例え1%だろうとミサイルを防げそうなMDにすがりたくなるのが人情ではないか。また逆に言えばそれ以外の有効な選択肢はアメリカやイスラエルが実践しているような自国に対して驚異になる相手に対しては先制攻撃してやられる前にやるしかない(イスラエルはイラクの核武装を防ぐと言う名目で1981年6月7日にイラクのオシラク原子炉を爆撃している)、いくらなんでも日本がそんな手段を取ることは出来ないとも思えるが、911以後のアメリカのように世論が沸き上がっていれば意外にこうしたハードルは超えられてしまうと思うのだ。しかしそんなことをしてしまったらそれこそ極東アジアは戦乱がはじまってしまう。現に何度も先制攻撃を受けたイラクが今どんな状況になっているかを見ればそんなオプションを取るわけにはいかない。
 そんな訳で今では私も、非常に消極的ながらミサイル防衛システムを推進するしか日本には選択肢は無いのではないかと思っている。

注:北朝鮮の核武装能力自体が本当にあるかと言う問題があるが、話が複雑になるので今回はこの問題には立ち入らない。
注2:今回の話はあくまで軍事オプション面からの話であり、もちろん政治・外交オプションで解決するのがベストなのは言うまでもないだろう。

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