ソ連/ロシア原潜建造史
雑誌「世界の艦船」で連載されていた「ソ連/ロシア原潜建造史(アンドレイ・ポルトフ 海人社)」がついに発売されたというニュースを聞いて早速買ってきた。これまでソ連原潜についての本はあったもののロシア人研究者によって書かれた(しかもロシア太平洋艦隊の公式通訳者でもある)本書はその内容の詳しさと、秘められたエピソードの豊富さで他を圧倒するものである。いろいろ書きたいところであるがすでに速水螺旋人氏がすばらしい解説を書いてくれていたのでちょっとその一部を引用させてもらうことにしよう。
この本の素晴らしいところは、単なる原潜の解説に留まっていないところです。 原潜を通じて見えてくるソビエトという変てこな国家体制と文化、アメリカと繰り広げる冷戦の焦り、絶句するような愚かさと、そして想像もつかない英雄的行為について。 潜水艦にあまり興味のない方にもお薦めですよ。 思いもよらない思想、メカ、事件がてんこ盛りで、センスオブワンダーに満ちているといってもよろしい。 特に第1世代の原潜はムチャクチャです。原子炉に緊急注水装置が無かったりするのは序の口です。 蒸気発生器は出撃後たった600時間で蒸気漏れが起きたりします。 そんなんでも世界一周連続潜行とかやらかしてるのは脱帽ものですよ。 あと、高速を出すと発令所の騒音が100デシベルとか……(電車が通るガード下レベル)。 しかしソ連ならではの素敵な兵器も多く、魚雷発射管から一人乗り小型ヘリコプターを射出できたりする機構なんてのがあったり! 007だ。 あと僕が大好きなのが705/705K型(アルファ級)です。 液体金属冷却原子炉搭載、乗組員はコック以外全員士官、設計思想は米機動部隊が接近してきたら即座に迎撃するという「防空戦闘機の潜水艦版」。 静止状態から40ノットまでわずかに1分! 無論騒々しいことこのうえないですが、魚雷より早いので問題ないのです。 「この高い機動性を活用すれば、向かってくる魚雷をかわし、相手の死角に飛び込み、反撃に転ずるのも容易であったろう」。きゃっほう! 一方将兵の規律の乱れたるや我々には思いもよらない域に達しています。 いじめられた水兵が報復のためトイレに16キロの水銀を流し込み、乗組員のほとんどが水銀中毒に。 トイレで隠れて喫煙した水兵が空気フィルタに吸殻を隠して火災発生。原子炉区長がアルコールを密造……。 大麻を売っていた海自隊員などかわいいものですね。 『敵対水域』で有名になった、大西洋で事故を起こし沈没した戦略原潜K-219の場合もひどいもので。 『敵対水域』では事故の原因が米潜との接触だったと示唆されていますが、ポルトフによれば「ミサイル担当員がトイレに海水を流そうと発射筒から勝手にバイパス・パイプを作ろうとしたのが原因」だそうでなんともはや。 一方、事故に対して創意と勇気で立ち向かった乗組員も多かったのです。崇高といってもいいほどですよ。 それにしてもこの本はソ連原潜事故史と言い換えても良いほどです。
そんな訳ですでに私が付け加えることなど何もないが、同じロシア潜水艦でこれも必見のディスカバリーチャネルでやっていたロシアの戦略ミサイル原潜タイフーン級を扱った「タイフーン潜水艦の内部を探る」と言う番組を代わりに紹介しておこう。この番組の凄いところは普通こうした番組は機密保持の関係から○○の全てと言いつつ、大抵上っ面をなでた程度の扱いしかないのが普通なのに、なんとここではTVクルーがミサイル原潜に乗り込んで、作戦行動の一部始終を同行している上に、モザイクがかかっていたのはサウナの中のクルーの局部だけと言うところである。作戦も本格的で追いすがるNATO群の追跡を必死でかわし、ようやく振り切ってクルー共々祝杯をあげるくだりまであるのだ。(って君たちTVクルーはNATO諸国の人でしょう…(笑))。
ディスカバリーチャネルの番組の多くはDVD化されているものの、残念ながらこの番組はまだDVDにはなっていない。しかしその代わりと言う訳ではないが気長に待ってるとひょっこり再放送されていたりするので、興味のある人は気長に番組表をチェックして見て欲しい。
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