今週のコミック「勇午」における情報収集衛星の考察
イブニングで連載されている漫画「勇午」は毎回社会問題や国際情勢を取り上げた硬派な漫画で結構気に入っているのだが、今回は日本の情報収集衛星がテーマの話になるらしい。そんな訳でどんな切り口になるか気になって読んでみたのだが、残念ながら衛星やロケット周りでいろいろ気になることが見つかったのでちょっと突っ込んでみようと思う。
まず気になったのは、これまでの打ち上げの内容の詳細が機密情報として書かれているくだりである。具体的な内容については言及してはいないものの、実は打ち上げ内容に関しては少なくとも日本では機密と呼べるようなものは存在していない。もともとロケットの打ち上げというのは思ったよりも自由度が低く、どのくらいの重さの衛星をどの軌道に載せるかでほぼ打ち上げ時刻や使われるロケットは決まってしまうので、逆に言えば衛星の目的やロケットの打ち上げタイミングさえ押さえてしまえば、後は逆算で大抵の事が判ってしまうのである。また打ち上げ自体、冷戦時代に米ソが互いの核ミサイル打ち上げを察知するために構築した情報網により、地球上ほぼどこから打ち上げてもすぐに察知されてしまうのが現実だ。さらに付け加えるなら、アメリカはノーラッド(NORAD)と言う組織で24時間体制で宇宙の衛星の状況や地球上の核ミサイルや戦略爆撃機などの動向を見守っている上に、発見された衛星はどんな軌道を通っているかなど全て把握され、しかもそれは誰もが閲覧可能なのだ。じつは以前、日本が情報収集衛星を打ち上げたときも当初秘密のはずの軌道が公開されてしまって、後で日本がクレームを入れて引っ込めてもらったと言う下りさえあるくらいである。
もう一点は、打ち上げの妨害の危険性を確認するために地上からロケットを爆破できるのかと勇午が聞く場面が出てきて、しかもそれがかなり重要な機密事項のような書きかたをしている点。実は有人ロケットは別にして大抵のロケットは万が一軌道がそれて人口密集地に落下する事が無いように、爆破装置が付いているのはごく普通の事なのだ(皮肉にもこれが最初に使われたのは、1999年に打ち上げられた情報収集衛星を載せたH2A6号機である同年に打ち上げられたH-II 8号機(ひまわり後継機)の方が最初だと言う指摘を頂いたので修正します)。もちろんこれは秘密でも何でもなく、宇宙開発関係者やその手のものが好きな人なら誰でも知っている事である。
まあ漫画の中のロケットや衛星、さらに軍事の描写がお粗末なのは別に「勇牛」に限らない(むしろ「勇午」は良く書けている方だろう)、MOON LIGHT MILEなどではステルス機が空母に着艦したり、人間が踏んで爆発する地雷(対人地雷)で戦車が吹っ飛んだりと無茶苦茶な描写が多くて一時期はスラッシュドットでネタにされたくらいだが、この手のネタをあげつらっていけば、当てはまる漫画はいくらでもあるのが現実だ。だが宇宙開発好きの一人としてもう少し間違いが減ってくれれば良いと思うのである。
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Comments
はじめまして、いつも楽しく読ませていただいています。コメントするのは初めてです。
揚足を取るようで申し訳ないのですが・・・・気を悪くしたらすいません。
日本で初めてロケットの自爆が行われたのはH-II 8号機(ひまわり後継機)の打ち上げのときとなります。
話に聞くところによると自爆用のボタンは3つあって、3つ目を押した時点で初めて自爆するようになっているそうです。そして、2つまでは簡単に押すことができるのですが、3つ目のボタンはなかなか決心がつかない、とも聞きました。
これからも更新を楽しみにしています。
Posted by: Nes | November 18, 2005 10:50 PM
Nesさん、ご指摘ありがとうございます。
早速本文の方を修正しておきました。いつも見ていると言うコメントをいただけると嬉しいです。これからもよろしくお願いします。
Posted by: doku(fukuma) | November 19, 2005 01:46 AM