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December 20, 2005

国民クイズ化する株式市場

 みずほ証券誤発注において、27歳の個人投資家が、誤発注に応じて同社株を最大7100株取得し、約20億3500万円の利益を得ていたという。このニュースを聞いたときに思ったのは、1993年にモーニング誌で連載され、カルト的な人気を博したものの絶版になっていた長編作品「国民クイズ」のことだった。この世界では議会制民主主義体制が崩壊し、その代わりに国権の最高機関「国民クイズ」の番組に出演し、勝ち残れば殺人でもエッフェル塔の私物化でも合法化される、「あなたのための全体主義」の世界と化した日本が舞台になっている。一見、荒唐無稽に見えるこの世界だが、妙に今の日本にマッチしていないだろうか。
 日本でごく普通なサラリーマンが一生かかって稼ぐ金は約2億円といわれている。しかし、いい大学を出て大企業に入れば保証されたこの金額も、今ではどれだけの人が手に出来るかわからなくなりつつあるのが実情だ。とはいえ普通の人にとって一発逆転をねらうチャンスは、自由競争社会を目指しているといわれている割にはあまりにも少ない。そうした中で、株式市場は数少ない一発逆転が可能な舞台に見えるのだろう。書店に行くと今や一つ棚全体が株式投資や外国為替などの金融商品を扱うコーナーになっているし、週刊誌を見れば二十歳過ぎの若者がわずか数年で何億も稼いだという記事が目に留まる。たしかに、まっとうに稼いでも先が見えているなら、いっそ株式市場で一攫千金を目指すのも有りなのかも知れない。そんな訳で今では多くの者が100万円を1億にするゲームに参加しているのだ。金融社会化が進む中で、「リスク化」が加わればデイトレーダーが増えるのは当然と言えるだろう。
 こうした風潮を批判するのはたやすいが、代わりの代案が示されないままただ労働のすばらしさや、昔はよかった式の話をしても意味はない。むしろ「機会不平等」ではないが、本当にスタート時点が平等なのか怪しい今の新自由主義に比べたら、どんな立場の人間すら一発逆転が可能な国民クイズ体制の方が遙かに自由で民主的なのではないだろうか。

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