ハルムスとその仲間達
今年のNHKラジオロシア語講座応用編では「ロシア絵本とファンタジー」というテーマで、1920年代から30年代くらいに書かれた絵本を取り上げている。この時代はちょうどロシアアヴァンギャルドが花開いた時代で、グラフィック・文学・演劇・建築などあらゆるジャンルの芸術で数々の先鋭的かつすばらしい作品が発表された。そしてそれは絵本でも同じだった。サムイル・マルシャーク、コルネイ・チュコフスキー、ニコライ・ソーノフなどの今でもロシアで出版され続けている多くの作家が絵本を手がけた。
今月取り上げられていた、ダニイル・ハルムスもその一人である。ハルムスは1905年生まれの作家、詩人で多くのペンネームを使い分けながら、文学・美術・演劇などのジャンルで新しい芸術運動の展開を求めて、アレクサンドル・ヴヴェゼェンスキー、ニコライ・ザボロツキー、ウラミジール・タトリンなどと共に活動していた。不条理な誌や小説の他、子供向けの作品なども数多く手がけている。
私がハルムスの話が気になったのは彼の作品というよりは、タトリンと一緒に活動しているという点と、悲劇的な彼の人生に因るところが多い。
彼の作品の挿絵を多く描いたタトリンは第三インターナショナル記念塔(写真)が圧倒的に有名だが、不思議と建築周りで彼の作品を見ることがないのは、主にこうした絵本・演劇などの分野で建築家以外の作家達とコラボレーションしていた為である。タトリンの作品が好きだった私は当初、どうして建築分野で彼の資料がほとんど無いのか不思議だったのだが、実はこうした理由だったのだ。そのタトリン周りでハルムスの事も知ったのだが、ハルムスの作品は読んでいて面白いというよりは不条理な気持ちにさせるものが多い。例えば、ラジオ講座でも取り上げられた「交響曲第2番」はそもそも内容と何の関係も無い題名だし、ストーリーも曰くありげな人物が集まったかと重うと、何の説明も無く話が終わってしまったり、全く関係の無い話が始まったりする。
だが後で彼の運命を知り、しかもこの話が書かれた時期(1941年)を知るとそれが、彼とその仲間達の運命を暗示しているようで気になるのである。
ハルムスは文化の統制が始まると単に作品の内容が不条理だという理由だけで逮捕され、1942年にはノヴォシビルスクの収容所内の病院で無くなった。彼の仲間の多くも逮捕され、タトリンのように何とか逮捕は免れた人間もやがてはだれからもまともに相手をされない孤独な生活を余儀なくされ、ひっそりと忘れ去られたように世を
去っていくのだった。
ユニークなメンバーが集まって何かをしようとしたとたんに終わってしまうストーリー。何の説明もないまま打ち切られたり、変更されるストーリーは、あるいはこうした運命を予感したものだったのかも知れない。
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