北方領、漁船銃撃事件の背景にあるもの
16日に起きたロシア警備艇によるカニ漁船の銃撃・拿捕事件については、新聞等で報道されている事以上の詳細が分からないのでコメントは控えたいが、一つ気になっているのは事件の背景にあるオホーツク海のカニ漁について触れている記事をほとんど見かけない事である。
そうしたことから、この背景であるオホーツク海のカニ漁について少し書いてみたい。
この海域は未だ国境線が画定されていないこともあり、常に拿捕(だほ)と密漁が繰り返されてきた海だった。しかもこの海域は豊富な水産資源があるものの荒天が多く水温は極端に低く、普通に漁をしていても死と隣り合わせの海なのだ。さらに問題をやっかいにしていたのは密漁の裏に日露ともに水産マフィアや暴力団が仕切っていたことである。彼らは国境警備隊や政治家にまで繋がりをもち、それによる不穏な事件は後を絶たなかった。2002年には密漁を取り締まっていたロシア国境警備隊ユジノサハリンスク支部長宅に火炎瓶が投げ込まれ支部長が死亡すると言う事件までおきている。
また不穏な動きをしていたのは暴力組織だけではなかった。冷戦時代は密漁を許す代わりに軍事分野を含む秘密情報を提供していた「レポ船」や1000馬力以上のエンジンを積みロシア領海奥深くまで密漁を繰り広げる「特攻船」など普通の漁船とは明らかに違った船がこの海域にはひしめいていた。密漁を取り締まる日露両国も40ノット以上も出る高速艇や軍隊並みに武装している漁船相手に普通の方法では太刀打ちできず、銃の使用も日常茶飯事だったという。
こうした混沌とした海域の実情は今も少しも変わらない。ソ連崩壊後はKGBなどの工作が無くなった代わりに水産マフィアとロシア側の密漁船が力を増し、日本側の「特攻船」も相変わらず漁を続けている。ここは今でも危険で豊かな漁場である事には変わらないのである。
参考:密漁の海で—正史に残らない北方領土 (単行本)
新聞記者として領土問題を見続けてきた著者が、「国境の海」に登場しては消えていった人々を追ったドキュメント。下手な解説よりはまずはこちらの書評を読んで欲しい。
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