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September 18, 2006

書評:ペルセポリスI イランの少女マルジ

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ペルセポリスI イランの少女マルジ

 イランと聞いてどんなイメージがわくだろうか。ベールをかぶった女の人や髭を生やした男の人が抑圧された社会のしたで惨めに暮らす姿だろうか。それとも口々にスローガンを叫びながらアメリカ国旗を焼く原理主義者達のすがただろうか。
 この漫画に書かれたイランの姿はそれとは全く異なるものだった。キム・ワイルドやアイアン・メイデンをこよなく愛しマルクスまで引用する少女の目線で書かれたイラン社会は、抑圧的な社会の中でもその裏をかき自由と知識を求める人たちの姿が書かれている。そこで生活する人々は私たち西側社会と変わらない人たちであったのだ。

 書かれているエピソードには面白い話や考えさせられる話がたくさんある。主人公のマルジがジーンズとマイケルジャクソンのバッチを付けているのが女性革命防衛隊に見つかり連行されそうになるのを、マイケルジャクソンのバッチを黒人ムスリムの指導者マルコムXだと言い張り逃れようとする話やイスラム革命が起こる前、デモ一つ参加したことのない人が革命後改革者を気取り、本当にシャー(イラン国王)の圧政に抵抗していた主人公の父親をないがしろにする話。西洋的な生活に浸っていたはずの隣人達が革命後はすっかり敬虔なイスラム教徒を装う話。そしてそうした隣人達が互いに相手を西側退廃生活者として当局に密告をする話。そしてついにはイラクとの戦争が始まり事態はどんどんひどくなってくる。こうした悲惨な話が多いながらも話は不思議と陰惨にならないのは要所要所で披露されるユーモアのセンスだろう。もっとも暗い場面であってももっとも笑える話が挿入されているのだ。またもう一つ読後感が悪くない理由は、主人公の周りにいる人たちの生き方にもある。革命後、これまで西側生活にどっぷり浸っていたくせに急に敬虔なイスラム教徒を装う人々や、狂信者に対し、両親はいつでも理性的であろうとするし、周りに迎合することなく正しいと思ったことを時には命がけで行ったりする。
 周りの空気を読み、世間の言うこと=正しいこととしがちな日本人の中でこうした行動を取れる親がどれだけいるのかこの部分では特に考えさせられた。

 もう一つ印象に残ったのは、急速に抑圧的な社会になっていくイランの姿である。当初は皆、男女共同で西側と同じような教育を受け、アメリカナイズされた生活をしていたのが、あっという間に革命防衛隊が秘密警察のように市民を監視し、市民も互いに密告し合うような社会になって行く姿が、リアルティを持って書かれているのだ。
 きな臭くなりつつある今の世の中、必読の本だと思う。

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