幻のアイヌのお酒
以前、アイヌ料理店「レラ・チセ」に行ったときからずっと気になっていたことがある。それは様々な本格的アイヌ料理を出すこの店で、何故かお酒だけは無いことだ。いや正確に言えばちょっと違う。たしかにお酒はあるにはあるのだが、アイヌの食文化とは関係の無い札幌の地ビールや普通の日本酒などしか置いてないのだ。アイヌはお酒を飲まない民族だったのだろうか。
同じ疑問を持った人もいたのだろう。同じ質問をお店の人にした人がいたらしい。それによると神事の際は飲むものの日常の食事で飲む習慣は無いと言う。そうした話しに尾ひれが付いたのか、アイヌ文化を研究している大学の先生の中でもアイヌはお酒を飲まない民族だと言う人もいるそうだ。その人によればアイヌの飲酒の習慣は和人(日本人)が持ち込んだもので、お酒も交易で和人から入手していたという。
確かに北海道を統治していた松前藩がアイヌ人との交易でお酒やタバコをやりとりしていた事実はある。なんとなくそこには、ヨーロッパ人がアメリカインディアンやイヌイットにアルコールを大量に持ち込んで弱体化を図っていたのと同じ匂いを感じて嫌なのだが、ひとまずそれは置いといて本題に戻ると実はアイヌのお酒はちゃんとある。それはヒエを原料としたどぶろくのようなお酒で「ピヤパトノト」と呼ばれていたものらしい。
では何故こうしたお酒は今どこを探しても見つからないのだろうか。どうやら最大の理由は酒税法にあるらしい。
ご存じの通り酒税法では登録された業者しかお酒を造ることは適わない。今では大分緩和されたが、かつては既存の小売業者を保護し酒税の安定した賦課徴収を図るために、新規参入者に対しては厳格な制限が課せられた。これによれば例え神事の為に販売しなくても酒造りは犯罪になってしまう訳である。おそらくそうした事もあってアイヌの酒造りの文化は広まらなかったのだろう。またアイヌ人に対して日本政府が徹底した同化政策を長年していたこともそれに追い打ちをかけたに違いない。
惜しむらくはその酒造りの文化が今では専門店や現地の人の間でさえも失われつつあることだ。酒税法も緩和され地ビールなどがあちこちで作られるご時世だからこそ、どこかで再現してくれることを望んでいる。
参考Link:農家が教えるどぶろくのつくり方
酒税法などで自家酒造が禁止されるまで日本各地にあった自家酒造の方法を紹介した本。もちろんピヤパトノトの作り方も載っている。
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