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August 01, 2007

リアルワールドのキャプテンハーロック - ネストル・マフノの戦い

 30世紀の地球で無気力した人類は宇宙からの侵略者「マゾーン」の脅威にさらされるも、それらを宇宙海賊のしわざにし、なれ合いと保身にはげんでいた。そんな中、宇宙海賊の首領キャプテンハーロックはわずかな同士達と「自分の信じるものの為」戦いを宣言する。
 とまあ、いちいちキャプテンハーロックの出だしを書かなくても既に多くの人はどんな話しか知っているだろうが、歴史上ハーロックのような人物が実在したと言ったらどう思うだろうか。それがロシア革命当時、ウクライナの独立を目指した「無政府主義将軍」ネストル・マフノである。彼の伝説的な戦いの様子は浅羽通明氏の「アナーキズム」を引用するのが一番だろう。

 一九一八年三月、権力奪取後、半年に満たないレーニンのロシア革命政府は、旧体制が参戦していた第一次世界大戦から離脱するため、ドイツ、オーストリアと休戦、その代償として、ウクライナを事実上、独墺へ割譲するにまかせる結果となった。
 ドイツの傀儡政権が、旧地主擁護の反動的政策に着手し、農民の反感がつのり始めると、農民アナーキストの首領ネストル・マフノは、わずか十数人の同士とゲリラ部隊を結成、地主の邸宅、軍の武器庫を奇襲して軍資金と武器を強奪、卓抜なゲリラ戦でドイツ軍を撃退する。あたかもロビンフットのごとき活躍ぶりに、農民義勇軍が次々と「自発的に」合流、最盛期には数万の軍勢がマフノの指揮下で戦ったという。
 やがてドイツ敗戦で大戦が終わると、ウクライナはロシアに返還される。トロツキー率いるレーニン政府の赤軍は当初、マフノのアナーキスト部隊がウクライナの広大な農村を実効支配し、国家権力無き田園自治コミューンを建設するのを黙認し、マフノ軍を反革命軍や外国の干渉軍と戦う尖兵として用いようとした。それらの戦闘でマフノ軍は圧倒的強さを発揮したという。
 だが、赤軍の傘下へ入れとの勧告をマフノが蹴って以後、両者は敵対的関係となる。ところが、共通の敵である反革命軍が襲来すると、単独では撃退できない赤軍は再びマフノと休戦と言った事態が繰り返された末、ついに赤軍は騙し討ちでマフノ軍幹部を全員射殺、マフノはほぼ単身亡命、パリの陋巷で窮死する。
 アナーキズムがもっとも現実に近づいた史実とされるマフノ運動の興亡を長々記したのは、むろん、マフノ軍が『真田風雲録』の真田幸村と十勇士、『宇宙海賊キャプテンハーロック』のハーロックと海賊達と、あまりにも似ているからだ。
 TVアニメ最終回で、マゾーンの宇宙軍団を辛くも撃退して帰還したハーロックと海賊達へ向かって、地球政府首相は、コンピュータ登録でZの烙印を附せられた犯罪者である海賊を、いくら戦功があっても地上には受け入れられぬと、地球外退去を命じる。その直後、地球上に潜伏していたマゾーンの別働隊が決起、阿鼻叫喚のなか、首相は泣いてハーロックに許しを乞う。
 反革命軍の再度の急襲を受け、いったん敵としたマフノと再び休戦したトロツキーの赤軍のように。

 とこのように引用したのはごく一部だが、この本に書かれているマフノとハーロックの比較は面白い。もちろん単なる比較でなく、そこからアナーキズムや60〜70年代の若者論へと話しは発展していくのだが、とにかく箇々のエピソードが面白いのだ。こうして見ると事実は小説や漫画よりもはるかに凄いと改めて思うのである。

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