書評「新宿駅最後の小さなお店ベルク」
何でも個人商店が危機に瀕しているらしい、地方のシャッター街のように大手との競争に敗れたり、そもそも法律自体が大規模店に有利に個人店にに不利になっているせいだという。(注1)その中で競争の厳しい新宿駅改札から徒歩15秒にある場所で20年近くもやってきた小さな飲食店がベルクである。
そのベルクの店長である井野氏が店の成り立ちからお店の運営のおもしろさや工夫・困難まで余すことなく書いたのがこの本だ。
正直、この手の経営伝はたいして面白くない本が少なくない。苦労話を自慢げに書いてあったり、空虚な精神論が書かれたりしているからだ。しかし、この本に限ってはこれらの話は当てはまらない。確かに苦労も考えも書かれているのだが、その全てが現場の実践に裏打ちされた話になっているからだ。それはコーヒーなどのメニューの選び方から、困ったお客さんへの(愛に溢れた)対応法など、ありとあらゆる事に及んでいて、ここまで手の内を明かしちゃって大丈夫なのとかえって心配になるくらいである。
だがそれこそがこの本の最大の魅力だろう。おかげでその膨大な現場の体験話は単なるお店の経営書としてだけではなく、マーケティング論としても、あるいはグルメ本としても、さらには政治経済論としてとさえ読むことが出来るのだ。
前書きにも書かれているが飲食店をやろうとしている人だけでなく、何かを始めようとしている人や、あるいは仕事で悩みを抱えている人全てにお勧めしたい一冊である。
注1:本書でもその下り「ビル側が2年ごとに権利が切れる定期契約にしろと強要する話」なども出てくる
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