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May 22, 2009

書評:ヒトラーの経済政策

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 題名の通り、ナチス時代のドイツについて経済的な観点から分析した本である。だが題名を読んでパラパラとめくっただけだと一見ナチスドイツを評価するとんでもない内容の本と言う印象を持つかも知れない。事実、扉にも「現在の日本が見習うこと大」と刺激的なフレーズが踊っている。
だがこの本の真価はそうしたナチスの経済政策の評価より、当時の世界及びドイツの国内情勢そしてそれに対応する方法を模索する流れを詳しく分析したことにあると思う。分析なら今でも十分あるではないかと言う意見もあるだろう。だがどうしても今の多くの分析には一定の公式な見解が存在する。どんな点であれナチスを評価するのは良くなくて、戦争における戦勝国の責任問題について触れてはならないと言うものだ。もちろんこうした見解にとらわれない見方もあるだろう。だが残念ながらその多くは陰謀論だったりへんなイデオロギーに染まっていたりしてものが少なくない。そんな中でこの本は「何故当時の人々が熱狂的にナチスを受け入れたのか」について経済政策を中心に解説してくれている。そしてそれを読めば何故ナチスが政権を取れたのかと言う疑問も晴れることだろう。また当時の情勢を軍事・政治面で語る書物が多い中で経済面の分析が詳しく書かれているのもこの本の魅力だ。
 ところで書かれている内容を読んで思ったのはナチスというのは思ったよりも現実的な政党だったと言うことだ。本書に書かれているドイツを取り巻く情勢は想像以上に厳しくて第一次大戦で国内は荒廃した上にすさまじい賠償金を請求され、さらにその後は世界恐慌の影響で国内は失業者があふれかえり、財政は破綻、しかもその上に各国は自分の国の利益だけを考えて自国の植民地を中心としたブロック経済に移行して、ドイツに対する賠償金を下げるどころか様々な方法で金や土地・有力産業などを奪い取ろうとしている有様なのだ。その中でナチスはこうした状況を打ち破るため合理的に有効なあらゆる方法を進めることに専念する。そのためには多少強引だろうが非民主的であろうがお構いなしに進めるしかないと言う状況なのだ。
 確かにここに書かれている状況で国の再建を目指すとなればナチスの政策は悪くない。しかし本書を読むと結局当時のドイツは戦争に進んでいくしかないと思えてくる。ナチスの経済政策がうまくいき一見ドイツが復興したように思える大戦直前の状態でさえ、長期的には金が枯渇して石油の輸入や対外債務の支払いが出来なるなるのは明らかだったからである(しかも欧米は最後まで債務を取り立てることを止めるつもりはなかったのだ)。
 そして皮肉なことに当時の情勢は妙に今の時代ともシンクロする。本書に書かれている好景気に沸くアメリカの投資が暴走しその反動で世界恐慌が発生し、各国で深刻な格差が発生しナショナリズムが高揚するありさまは、まさに今の時代にも当てはまる。世界的な恐慌の中で独裁政権が実に効果的に景気対策を行い回復すると言う記述は、現状の中国の有り方を思わせるし、非常時を切り抜けるために強力な指導者が熱狂的に国民に支持されていると言う状況は今のロシアに当てはまる。そして驚くのはナチスの党要領に書かれている内容が最近2chを始めとしたネットで頻繁に見かける主張に驚くほど似ている事だろう。経済回復はいいとして、これから先本書で書かれているような悲劇まで再現しないことを願うばかりである。

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