ベルク立ち退き問題と定期借家契約に関する気になる噂
久しぶりに新宿にあるカフェ「ベルク」の立ち退き問題について昔、建築関係の仕事に関わった立場から書いてみたい。と言うのは強引に立ち退きを迫る貸主のルミネに対して一万人以上の反対署名が集まった結果、一時は終わったかと思われたこの問題が再び今年の3月を期限にルミネが蒸し返してきたからだ。
またもう一つの理由はベルクに関わらず、全ての店舗さらには個人の賃貸人にもこの問題の根っこである「定期借家契約」が影響を及ぼすかも知れないという噂を聞いたからだ。
そもそもベルクの立ち退き問題は別にベルクがテナントとして問題がある訳ではない。むしろ新宿ルミネに入っているテナントの中では素晴らしく収益の高くきちんと家賃を納め続けている優良テナントなのである。では何故ルミネはベルクを追い出したがっているのかと言うと、ルミネ自身から一切情報が出ないためあくまで推測なのだが「全てのテナントに対して定期借家契約を結ばせる為」ではないかと思われる。
ではこの定期借家契約とは何なのだろうか。ググってもきちんとしたまとめは少なく、あってもオーナー向けのものが大半なのだが、それでも熱心に調べると以下のようなものである事が判る。
定期借家契約 | 従来型の借家契約 | |
---|---|---|
契約方法 | 1.公正証書等の書面による契約に限る 2.更新がなく期間の満了により終了することを契約書とは別にあらかじめ書面で示す必要がある | 書面でも口頭でも可 |
更新の有無 | 期間満了により終了、更新はない | 正当事由がない限り更新 |
建物の賃貸借期間の上限 | 無制限 | 2000年3月1日より前は20年、2000年3月1日以降の契約では無制限 |
更新の有無 | 期間満了により終了、更新はない | 正当事由がない限り更新 |
1年未満の短期契約に関して | 1年未満の契約も可能 | 期間の定めのない賃貸借とみなされる |
建物賃借料の増減に関する特約の効力について | 賃借料の増減は特約の定めに従う | 特約にかかわらず、当事者は賃借料の増減を請求できる |
中途解約の可否 | 1.床面積が200㎡未満の居住用建物で、やむを得ない事情により生活の本拠として使用することが困難となった借家人からは、特約がなくても法律により中途解約ができる。 1以外の場合は中途解約に関する特約があればその定めに従う | 中途解約に関する特約があれば、その定めに従う |
元が法律の文なので分かりにくいが、要は定期借家権ではあらかじめ決めた契約内容に従って期限や家賃等が規定され、よほどの事情が無い限りそれが厳密に適用されるようになっている。
問題なのはこの契約に関する多くの「記事が優良な賃貸住宅が供給されやすくなることを目的として、『貸主(大家さん)と借主(入居者)が対等な立場で契約期間や家賃等を自由に定め、合意の上で行われる賃貸借契約』」と謳われている事だ。だが実情はこれとは異なる。この法案が通ったとき自由法曹団が出した意見書に詳しいが、この契約ではこれまでの賃貸契約に比べはるかに大家側が有利なものになっている。くわしくはその意見書を見て欲しいが、特に気になるのは借り手側が新規で契約を結ぶ場合に定期借家権を適用している物件であれば選択の余地は無い事と、この契約が「定期借家契約」と言う文面を入れなくても構わないという点だ。つまりうがった見方をすれば「定期借家契約」と言う文面を入れずに、生命保険の注意書きのようにひどく読みにくいものしてしまえば、気がつかないうちに結ばされてしまう危険性があるのである。
実はこれは懸念ではない。ルミネではベルクの他にも多くのテナントが定期借家契約を結ばされたが、その中には定期借家契約と知らずに(知らされずに)結ばされたケースも多いのだ。しかも後で気付いて知らされなかったのだから無効であると訴えた裁判では、「これを認めては定期借家契約が骨抜きになってしまう」と言う論点から却下されたという判例が既に出てしまっている。
幸いまだ定期借家契約は一般の住宅用途においては借り手に不利益になる危険が多い事から、これまでの契約からの切り替えは認められていない。ただ新しく出来た物件に関しては定期借家契約としている物件が多いのが現状なのだ。そしてあくまで噂だが、今後一般住宅向け物件に関しても定期借家契約に切り替え可能にしていこうと言う動きがあるという。
今後、住む場所を守るためにもベルクの立ち退き問題は見守る必要があると思う。
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